Vaporwaveとマクドナルド

さて、皆さんは少し前に流行った「Vaporwave」という音楽ジャンルをご存知だろうか?

流行ったと言っても、あくまでそれはネット上での話であり、例えばチャートを席巻したとか、有名どころのアーティストがこぞってこのジャンルを演奏したとか、そういう話ではない。ので、知らない人が世の中の大半であろうと思う。むしろそういった流行りとは無縁のところで、一種のインターネット・ミームのような感じでじんわり、陰湿に?楽しまれていた音楽のような気がする。

 

内容としては、80〜90年代くらいのいわゆるAORやシティポップといったトレンディ(古い)な曲たちを、めちゃくちゃに切り継ぎ、スローダウンし、加工しまくった音源に、これまたその年代らしいカクカクでザラザラな映像をコラージュして作り上げた、一種異様で気味の悪いものなのだが…これが謎の中毒性というか、不思議な郷愁のような感覚を持って訴えてくるのである。

まぁ百聞は一見に如かず、というか一聴に如かず、ということで、一番有名であろう曲が、コレ。

 

youtu.be

 

これだけ見ていただければ、大体どういうことか分かると思う。

ちなみにこの作品は、"If I Saw You Again" という、Pagesの1978年の曲が元ネタなのだが、その曲のイントロの部分だけをひたすら切り継いで作っているのだから、驚きである。

もともとは、大量消費社会へのアンチテーゼとして始まった音楽だそうだが、結局注目度が上がるにつれ、Futurefunk等の強烈なダンスビートをミックスしたポップで聴きやすい音楽へと変化していった。

そしてその頃からサブカル的な注目を集めて、メジャーどころでもそのエッセンスが使われるようになり、逆説的にVaporwaveは廃れ、滅んでしまったというのが最近での定説?である。

 

確かに身近なところだと「水曜日のダウンタウン」、あのオープニングは完全にVaporwaveの世界観を踏襲しているのが分かる。大量消費社会のアンチテーゼだったはずのVaporwaveそのものが、楽しまれ消費される側に流されてゆく運命になったのはなんとも皮肉なものだが、もとよりそんな高尚なものでもない。

 

で、僕はそんなVaporwaveが出てきた当初から結構気に入っていて、よく聴いていたのだが、今回はなにもそんな音楽論を展開しようというのではない。長くなってしまったが、ここからが本題だ。そして本題は大した話ではない…のだが、これなのである。

 

 

先程の「花の専門店」(それは花屋だろ、というツッコミはさておき)についていたコメントなのだが、これには膝を打って笑ってしまった。

ああ、わかる…わかるよ!その気持ち!

 

このコメントを残した方はアメリカの人だろうか?

あの巨大に引き延ばした散居村か、あるいは小さく押し込めた銀河系のように、農場や原野の間に幹線道路で結ばれた集落がぽつりぽつりと広がる中にある、アメリカ内陸部の名もなき街。2つ先辺りの集落に、地元民しか行かないようなマクドナルドがあって、ちょっと古めのアメ車で深夜、ハンバーガーでも食べにVaporwaveを聴きながら出かける。果てしなく空虚でジャンクだが、何故かnot badな夜がそこにある。あるいは、デトロイトのような荒んだ工業都市でもいい。煤けた空の下、やはり退廃的で空虚で、人工感溢れるVaporwaveはよく似合うはずだ。

 

そんなわけで、一度くらいはこの

「Vaporwaveを聴きながら夜中に車でマクドナルドに行く」

 

という行為をしたいとずっと思っていたのである。自分でもちょっと何を言っているのか分からないし若干引いているが、やってみたいものは仕方がない。

 

さて、ではどこのマクドナルドへ行ってみようか。色々調べて、最初に良さそうだと思ったのが、東大和市の「上北台」というところにあるマクドナルドだ。

 

 

地図で見てもらうと分かるが、このマクドナルドの北方には、多摩湖狭山湖という二つの貯水池がある。以前車で通ったことがあるのだが、真っ暗な湖沿いに極彩色のけばけばしいネオンが光るラブホテルとその廃墟が並ぶ、薄気味悪い峠道である。このある意味現実感のない峠道を抜けてマクドナルドに着くコースというのは、なんだかVaporwaveの世界観と合う…ような気がする。

しかし一応家族がいる身としては、夜中に突然親父が「マック行ってくらぁ!」と妻子を置いて出発し、近くでもないラブホ街にほど近い湖畔のマックへ一人ハンバーガーを食べに出かけていく…というのはどう見ても家族からすれば不審そのものであるし、やはりちょっと無理がある気もする。ならば工業都市の方はどうか。川崎の産業道路沿い辺りなら、雰囲気もバッチリだし、生活圏で夜、用事のついでに寄れなくもない距離ではある。調べてみると残念ながら産業道路に駐車場のあるマックはなかったが、少し内陸に入った小田栄にある模様。浜川崎の近く、工業地域らしい雰囲気もあるだろうか?とりあえずこのマクドナルドを目指すことに決めた。

 

 

決行当日(というほど大した話でもない。)、横浜は青葉区での用事を終え、いざマクドナルド川崎渡田店へ。

当初は車を出したらすぐにこの「花の専門店」ともう一曲「現代のコンピュー」(誤植ではない!)を聴こうと思っていたのだが、あの田園都市線沿線のハイソで落ち着いた雰囲気には、どうもVaporwaveは似合わない気がして、鶴見川を越えたあたりから再生を始める。

 

車なので、途中写真が撮れないのが残念だが、年季の入ったアパート・マンションや、工業地帯へ繋がっているであろう鉄塔、あるいは貨物列車の操車場や、走りゆく臨港バス、それにヤシの木の生えた外車の専門店。どれもどこか退廃的で「らしい」雰囲気を醸し出して、確かにnot badなドライブだ。

途中タクシーをパトカーが停めて、何やらトランクを調べているという怪しい場面にも遭遇し(汗)、それもある意味で「らしい」雰囲気と言えなくもない…気がする。(汗)

かつて川崎市電が走っていたのであろう市電通りに入り、Vaporwave一人コンサートも最高潮に達したところで、マクドナルドに到着…したのは良いのだが、

 

まさかの臨時休業。

電気はついてるのに…妙に静かだと思ったよ。

さぁどうしたものか。一応、「Vaporwaveを聴きながら夜中に車でマクドナルドに行く」という目的は達したものの、ここまできたらやはりジャンクフードを摂取して帰りたい。車で少し行ったところにもう一軒、マクドナルドがあるようなので早速車を走らせる。実は夕飯を食べずに来てしまったもので空腹もそろそろ最高潮である。

こんなにも心身ともにマクドナルドを欲したのは人生初だし、おそらくこの先もないだろう。当初のコンセプトも忘れかけ、辛うじて脳内でVaporwaveを流しつつ(!)、目をギラつかせながら「マクドナルド川崎富士見通り店」に入店。

 

 

スマホで写真加工。妖しく光る原色、ちょっとそれっぽい雰囲気にしてみた。

先程のマクドナルドが休業だったこともあってか、ドライブスルーは信じられないほどの大渋滞を起こしていたが、駐車場は空いていてなんとか停めることができた。

あとは店内で注文である。が、どうやら先のドライブスルー渋滞は先頭の車の大量注文によるもののようで、キッチンは大パニック。レジもまともに回らない有様で、少々お待ち下さい〜と言われてから、レジの人も次々に食べ物を捌いている。この混んでいる時のマクドナルドの、奥からカラフルな包み紙や箱に入ったジャンクフードが次々に放り投げられるように流れてくるキッチンの光景は、まさにジャンク…という感じで食欲も失せそうになるのだが、今日ばかりは雰囲気を盛り上げてくれる光景…な気がする。

 

というわけでお待ちかねのマクドナルドだ。

店内は幸いにも空いていてゆっくりできそうだが、店内奥ではヤンキーの二人組がなかなか乱雑な使い方で過ごしており、何やらヒップがホップな曲を流してたむろしているのである。普段なら顰蹙モノの光景だが、なんだか深夜のアメリカのマクドナルドっぽいかも…と、あのYouTubeのコメントに想いを寄せて一人で勝手に盛り上がっていた。

しかし疲れた空きっ腹に糖と油をいきなりぶち込んだので、なかなかに胃もたれしてしまったのが情けない…。でもこのもたれ感も、なんだかこの一連の流れにセットになっているような気がして、もうええわ、と心の中で突っ込みつつ、首都高で帰路を急ぐ。

 

BGMは…まぁもう、他のでいいかな。