我が生涯は一片の悔いの集合体である
もう何年も前になるが、仕事でお世話になった方の葬儀に参列した。
僕は決して長いお付き合いではなく、ただその時お世話になっただけであったが、それでもその厳しくも優しい、暖かいお人柄はよく覚えている。もっと沢山お世話になりたかった、というのが正直な気持ちだった。
人望に厚い方らしい、沢山の参列者の涙と優しい笑顔に包まれた葬儀だった。
その時に奥様が語られていた、最期の言葉が僕は今でも忘れられない。
「もう自分の人生には何の悔いもないよ。なぁに、少し先に行くだけだから。」
そう言い残して、旅立たれたのだそうだ。
家族と音楽と仕事を愛して、生涯を全うされたその方らしい一言だった。
翻って我が平凡な人生をふりかえれば、まぁ取るに足らない些末な下らないことをああでもない、こうでもないとクヨクヨと悔やんでばかり。全く情けない限りだが、しかし最近そんな小さな悔い達が、少しずつ砂の中の雲母のようにきらきらと、愛おしく思えてきたのは、僕もオジサンの仲間入りをしたということだろうか。
いつか家族に、僕も同じ言葉を言えるように。
今はまだクヨクヨと、小さな毎日を振り返ってみたい。